意思表示を許された俺たちへ

2019年10月12日土曜日

マスコミ 政治 短編

t f B! P L
 この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。
 思い当たることがあってもそれは偶然に過ぎません。
 たまたま一致しただけであり、この作品はパラレルな世界を描いたのですから……。




意思表示を許された俺たちへ
 俺は怒っていた。仲のいい拓夢も同じように怒っている。全ては社会科の爺い教師のせいだった。授業中に何かにつけて、「沖縄が~」とか「米軍基地が~」などと特定のプロパガンダばかりを主張する前時代的なもうろく爺いだ。今時そんな主調を俺らにしたところで誰もそのままに受け取りはしない。ネット世代は情報を取り放題なのだ。確かに米軍関係者の事件もあるが、ほとんど報道されることのないそれに倍する特定の民族が起こす事件もある。先の沖縄の事件にしたところで、痛ましい事件ではあったが、それを申し訳ないと思った米国の人たちによる、炎天の沖縄の道路上で謝罪のプラカードを掲げてお詫びする様子などは、一切マスコミで報道されなかった。そんな姑息な手段で俺たちをコントロールできると考えていることに怒りを覚えるのだ。

 今回の模擬選挙戦も突然その爺い教師が言い出したことだった。与党と野党に別れてのディベートを行ない、間近に迫った選挙戦をシミュレートしようというものだ。どうせあの爺いは、野党に肩入れして、自分好みの結論に誘導するに決まっている。昭和の時代、体育の授業でウサギ跳びをしていたデタラメ世代に負けるわけにはいかない。そんな悪行三昧は許せないのだ。俺も、それに拓夢にしたところで特定の政党に肩入れする気は今のところない。初めての選挙には興味を持ってはいるが、クラスメイトの半分以上はまだ選挙には行けないのだ。そんなクラスメイトを代表して一票を投じる気持ちも、もちろんない! 俺の一票で世の中が変わるとも思っていない! 俺はそれほど楽天家ではないのだ。ところが爺い教師はその様に思っていることが腹立たしい! お前の思うようにはさせない! 絶対にだ!

 模擬選挙戦のディベートまでの一週間、俺と拓夢が中心になってシナリオを創り上げた。近所に住んでいる、絵梨佳と真依子も仲間に引き摺り込んでシナリオを練り直す。担任への根回しも忘れなかった。いわゆるゆとり世代の担任だが、ネット民の大先輩でもある。俺たちの主旨を理解して、そして賛同してくれた。
 ディベート当日、教室内の配置を移動して俺と拓夢は二手に分かれた。それぞれ相棒の党首と二人ひと組で向かい合う。他のクラスメイトたちは観衆よろしく固唾を呑んで見守っている。ちゃっかり担任も観衆に混じっていた。いよいよ俺たちの三文芝居の幕が切って落とされた。

「戦争法案! これは絶対に廃案にしなければイケナイ! この国がいつでも戦争が出来る国であってはならないのだ!」
 シナリオ通りに拓夢の絶叫から始まる。これもシナリオ通りに俺が答える。
「この国という言い方はいかはなものでしょうか? ここはやはり我が国という当事者意識を持った言い方が好ましいのでは?」
 ネットを徘徊して知ったことだが、この国という言い方をする人たちの意見はどうも我田引水で馴染めない。
「そんな些末な言葉にこだわっていないで、戦争法案の本質を見るべきです。この機に乗じて憲法第九条まで改定しようとしているではないですか?」
 拓夢の相棒である、絵梨佳が某党首よろしく切り込んでくる。爺い教師は大きく頷いて満足そうだが、ここで俺の反撃開始だ。
「隣の国が昨年行なった軍事パレードをご覧になりましたか? 攻撃用核弾道ミサイルが誇らしげに行進していたではないですか。尖閣諸島を始め日本の領海にも平気で侵入するし、別の隣国はミサイルを日本海に立て続けに飛ばしてくるし、と我が国を取巻く危機的状況は多く存在します。国民を守るという、どこの国においても正当な考えに基づいて自衛策を講じなければなりません」
  爺いの苦々しげな顔が目に入る。ザマアミロだ。拓夢が又もや絶叫をする。
「世界に誇る平和憲法を無き者にしようというのが駄目だと言っているんです! 日本はこの70年戦争に巻き込まれなかったのはこの平和憲法があったからでしょう?」
 よしよし、シナリオ通りだ。爺いも嬉しそうだ。これに対して俺の相棒党首役の真依子が反論する。
「確かに第九条があったから戦争に巻き込まれなかったのは事実でしょう。しかし、日本が戦争を回避できたのはそれだけでしょうか? 日米安全保障条約やそれに基づく全国に点在する米軍基地の役割も大きかったと言わざるを得ないでしょう。それとも、あなたは家に鍵を掛けなければ泥棒は入らないとでもお考えですか? 泥棒が入らなかった理由、それは隣に交番があったからでしょう。目の届かなかった竹島は現在どうなっていますか?」
 真依子の例えにクラスメイトたちは頷きながらも笑っている。
「もうこれくらいにしよう」
 突然爺い教師がディベートを中断しようとした。自分のシナリオ通りに進んでいないことに苛立ったようだ。そうはさせるか! 俺は担任に目配せをした。
「先生、せっかく生徒たちが自分の意見でディベートをしているのですから、もうしばらく進めましょう。お願いします」
 根回し通りに担任は進言してくれた。爺いも渋々了承するしかなかった。
「じゃぁ、続けて」

 それからも俺たちは今回調べて不思議に思ったことをぶつけ合った。
 権力を監視するという大義名分を掲げる日本のジャーナリズム。これを海外特派員協会で声高に叫んで失笑を買っていたこと。ジャーナリズムの目的は、真実を公正公平に伝えることだと呆れられていた。
 原発のこと、消費税のことなど、ある側面しか伝えてくれないマスコミ報道ではなく、自分たちで調べ、そして考えたことを話した。

 最後に担任から俺たち4人に感想を求められた。根回しにはなかったことだ。最初は拓夢が話した。
「正直選挙権と言ってもピンとこないし、誰とどんな話をしていいのかも分からなかったけれど、自分の意見というか、意思表示は他の誰でもなく自分で決めたいと思った。聞いてくれてありがとう」
 上手いこと言いうもんだ。少し嫌な役を押しつけてしまった絵梨佳が次だ。
「色々な意見があって、それを発信できるのは民主主義国家として機能していることだと思います。でも、他人の足を引っ張ることや悪口を言うだけの政党があるのは間違っています。もしそんなクラスメイトがいたら、みんなイヤでしょ?」
 国とクラスを一緒にするのはどうかと思ったが、言い得て妙だ。次は俺の相棒だった真依子の番だ。
「税金も払っていないのに、選挙権という権利だけもらうのが正しいことなのかは解りません。でも、せっかく頂いた権利ですから、精一杯悩んで自分の意見を決めたいと思います」
 う~~ん。真面目で好感が持てる。さすがだ! いよいよ俺が締め括る。
「国を変えるための一票と考える人もいるだろう。逆に国を変えないための一票と考える人もいると思う。自分の一票ではなにも変わらないと考える人もいるかもしれない。でも、今回参加してわかったことは、真剣に考えれば少なくとも自分は変われるかもしれないと言うことだった。真剣に考えて投票することを誓います。みんなありがとう!」
 4人揃って頭を下げると教室が拍手に包まれた。頭を上げると、いつの間に来たのか校長までが後ろに立って拍手をしていた。

 このディベートがクラスメイトにどんな影響を与えたのかはわからないが、影響があったことを書いてみよう。
 まず、爺い教師は他のクラスでもディベートを考えていたようだったが、取りやめになった。もはや前時代的なやり方では誘導できないことを思い知ったのだろう。
 これで休み時間に政治や政策の話でもすればいいのかもしれないが、そんなことはなかった。相変わらず昨日のドラマの話や男女のうわさ話ばかりだった。
 そうそう、ディベートに参加した4人で待ち合わせて投票に行くことにした。これがグループ交際にでも発展してくれることを祈ろうと思う。

(了)

タグですが、これより下はたいしたものないです

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