学校から帰ると、入院中の父親から電話があった。
「渡したい物があるから、今からこれないか」
三ヶ月にも渡る入院で父の声には元気がなかったが、断れない真剣さを感じた。
病室に入ると、小さく古い箱を手渡された。
「昔、俺の親父から受け継いだ物だ」
振ってみるとカラカラと寂しげな音がした。
「中にこの箱を開ける鍵が入っているみたいなんだが、親父も俺も取り出せなかった。俺のじいさんも駄目だったようだ。そろそろ渡しておこうと思ってな」
三日後に父は眠るように逝った。葬儀の間、父の形見とも言うべき箱は常に僕の膝の上にあった。
それから暇を見つけては箱をいじってみたが、カラカラと音がするだけで、側面の小さな穴からは鍵が出そうな気配はなかった。
結婚のために荷物を整理していると、久しぶりに箱を見つけた。振るとやっぱりカラカラと乾いた音がした。あれこれ引っ繰り返していると、乾いた音は少し移動しているようだった。
子どもが成長したため、僕の書斎を子どもに明け渡すことになり、再び箱と対面した。 振ってみるとカラカラと少し賑やかな音がしたがやっぱり鍵は出てこない。今までの持主とは違うところを見せようと、高校時代の同級生に電話をした。
病院のレントゲン室で同級生が技師に指示をしている。被検体はもちろんあの箱だ。彼の部屋で待っていると技師がやってきて説明を始めた。
箱の中には至る所に恐らく鉛だと思われる板が使われていて、ほとんど箱の中は映らなかった、と肩を落としていた。僕以上に意地になった同級生が消化器内科に連絡を取り、側面の出口から内視鏡を差し込むことにしたが、3センチも進まないで止まってしまった。映像を見ると鉛の壁に突き当たっている。上下左右を見渡すと1ミリほどの隙間があるのが見てとれる。中はいくつもの小部屋に分かれていて、そこに鍵がないと次の部屋への仕切りがフリーにはならないようだ。
僕は自宅へ戻って、振ってみたが箱はカラカラと誇らしげな音を立てていた。
あの日父から手渡された箱は、長年の手の油によって僕が渡されたときよりも、少しだけ艶やかになっている。箱を振ろうかと思ったが、考え直した。この箱を振るのはもうすぐここにやってくる息子の役目だ。彼の耳にはどんな音に聞こえるのだろうか。
病室のドアが開かれる……
(完)

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