コックリさんの秘密

2019年10月12日土曜日

短編

t f B! P L
【作者能書き】
降霊術のひとつであるコックリさんを扱っております。
掲載するにあたってお祓いをしましたが、以下に該当する方の閲覧はお薦めいたしません。

1.オカルト的なものに不快感を示す方
2.霊に対する耐性のない方
3.取り憑かれやすい方
4.守護神や守護霊のいない方



コックリさんの秘密
「コックリさん、コックリさん、おいでください。コックリさん、コックリさん、おいでください」    
 ほとんどの生徒が帰宅した放課後。茜色に染まった廊下に女子生徒の声がこだましていた。今の時代にコックリさん? 昭和の都市伝説だとばかり思っていた。一体誰にコックリさんなどを教えてもらったのだろう。尋ねたらこんな答が返ってくるような気がする。「友だちの友だち……」
 コックリさんを呼び出して聞くことといったら、多感な女子中学生のことだ、誰々さんが好きな人の名前は? とか、○○君は誰かと付き合ってますか? などだろう。他愛ないと言えば他愛ないが、そんなところからイジメが始まるかもしれない。理科教師の僕としても論理的にコックリさんを否定して、生徒を正しき道に戻すのも大きな役割だ。声の出所を突き止めてゆっくりと教室のドアを開けた。窓際の机を取り囲んでいた三人の生徒は一斉に僕を振り返る。中のひとり、中西が慌てて「コックリさん、コックリさん、おもどりください。コックリさん、コックリさん、おもどりください」とお願いしていた。ほう、きちんと終り方も知っているようだった。僕の目から避けるように机の中に隠した紙はきっとウイジャ盤だろう。盤といっても本格的なものを中学生が準備できるはずもなく、ただ紙に数字と五十音を書いたものに違いない。叱られると思ったのか生徒たちの顔は神妙だ。ここは妹に理解を示す兄貴よろしく、歩み寄ろう。
「コックリさんをしていたんだろう。大丈夫、別に叱ったりしないから。それよりもコックリさんの秘密を教えてあげようと思ってね」
「コックリさんの秘密ですか?」
 真 っ先に中西が興味を示してくれた。真面目で理科の成績も良い、三人の中では恐らくリーダー的な存在なのだろう。他の二人も黙って僕を見ている。
「そう、なんにでも興味を示すのはとても良いことだよ。でも、もう一歩進めて科学的な面から考察することも忘れてはいけない」
「科学的な面?」
「これからコックリさんを科学的に証明しようと思う。糸を持っているかな? それとノートを出してくれる」
 中西がカバンの中からノートと裁縫セットを取りだしている間に、僕は自分の財布から五円玉を1枚抜き取る。
「糸は20cmくらいでいいよ。この五円玉を先に結んでくれるかな。公正を期すため僕は一切触らない方がいいだろう。それと、ノートに15cmくらいの円を書いてくれるかな」
 中西がシャーペンでゆっくりと円を描いた。なかなかに綺麗な円だ。几帳面な性格が良く出ている。
「じゃ、中西さん、糸を持って五円玉を円の中心に下げてくれる。空間は10cmくらい空けるようにして……。そう、それで準備OKだ。頭は動かさずに、視線だけゆっくりと時計回りで円の外周をなぞってみて。途中で止めないように続けてくれるかな」
 他の二人も固唾を飲んで見守っている。5秒……、10秒、糸の先に下がっている五円玉が動き始めた。時計回りにゆっくりと……、そして段々と早くなる、やがて円の上を正確に五円玉が回るようになると、三人は驚いたような顔をする。
「もういいよ、協力ありがとう。これが筋自動運動といわれているものなんだ。無意識のうちに筋肉が収縮して身体を動かしてしまうんだよ」
「「わざとじゃない?」」
 二人同時に、中西に聞いたのは、僕と中西がグルだとでも考えたからなのだろう。
「違う。私はただ視線で円をなぞっていただけ……」
 中西に罪はない。誰がやっても同じ結果にしかならない。
「別に先生と中西が企んだわけじゃないぞ。これが科学的な証明だよ。特にコックリさんを行なうという緊張状態では起りやすいんだ。それとコックリさんはもっと簡単に、いいかげんなものだってことを証明できるぞ」
「「「本当ですか?」」」
 三人の視線に少し尊敬が混じっていると思うのは僕の自惚れだろうか。
「さっきのウイジャ盤を出してみて」
「ウイジャ盤?」
 中西にして、正式な名称を知らないのか……。
「コックリさんで使う紙のことだよ」
 中西は机の中から先ほど使用していたウイジャ盤(紙)を取り出して机に広げてみせた。
「これですね」


 最近のウイジャ盤はこの様になっているのか。中西が書いたのか綺麗な字だった。僕の子どもの頃にはなかった濁音や半濁音、それに長音符(ー)まで書いてある。
「それでは始めてくれるかな」
 中西が十円玉を取り出して三人でそれに指先を乗せた。たった十円で呼び出されるコックリさんはなんと寛大なのだろう。
「コックリさん、コックリさん、おいでください。コックリさん、コックリさん、おいでください」
 十円玉がゆっくりと『はい』で止まり、コックリさんが降りてきたことを示していた。
「これから先生が質問しますがよろしいですか?」
 十円は『はい』から動かない。どうやらコックリさんは僕が質問するのを許可してくれたようだった。いよいよ僕とコックリさんの対決だ。
「コックリさんは三人の中で誰かが答を知っている質問には簡単に答えることが出来るんだ。さっきの筋自動運動でね。では、最初の質問。僕の年齢は?」
十円玉が『2』から『8』へと動いた。正解だ。生徒なら誰でも知っていることだ。
「僕の名前は?」
『と』『も』『ひ』『ろ』と動いた。これも正解。当然だ。
「このようにあらかじめ知っていることには正解することが出来る。次は三人が知らない質問をしてみよう。僕の兄の名前は?」
『よ』『し』『ま』『さ』
 あれ?! おかしいな……、誰かに教えたことがあったっけ? よ~し、次だ。
「その兄の奥さんの名前は?」
 これなら知らないはずだ。誰にも話したことはない。
『あ』『さ』『み』
 そんなバカな!
「クラウジウスの法則の別名は?」
『ね』『つ』『り』『き』『か』『゛』『く』『の』『た』『゛』『い』『2』『ほ』『う』『そ』『く』
 嘘だろう! 中学生にわかるはずはない。脂汗が出てきた。
「円周率の小数点以下105桁目は?」
『8』
 しまった! 僕には即答できない。しかし、十円玉はためらうことなく『8』に動いていた。
「「「先生! これで信じます?」」」
 僕を見ながら三人同時に口を開いた。
「じゃあ、じゃぁ、じゃぁぁぁ、今度の選挙で勝つのは?」
『い』『つ』『も』『き』『け』『ん』『し』『て』『な』『い』『て』『゛』『と』『う』『ひ』『よ』『う』『に』『い』『け』
「「「先生いわれてますよ。あはははははは、アハハハハハハ……」」」
 もう勘弁してくれ~
 ご免なさい
 許して下さい
「「「先生! これで信じます? アハハハハハハ アハハハハハハ アハハハハハハ」」」
        

 せっかく田舎の神社でノンビリしていたのにあたしを狐狗狸さんで呼び出したのは誰だ? ここ何十年も呼び出されなかったのに、もう! まあ、今日のあたしは機嫌が良い。少しだけ中学生と遊んでやるか。

(了)

タグですが、これより下はたいしたものないです

短編 (9) マスコミ (1) 政治 (1)

Wikipediaで検索

検索結果

このブログを検索

QooQ